第一人者に訊く!セールス・イネーブルメントの成功事例と失敗パターン

セールス・イネーブルメントとは、「営業」を意味する「Sales」と「〜ができるようになる」という意味の「Enablement」を組み合わせた言葉で、簡単にいうと「営業が成果を出せるようにする取り組み」を指します。

今回は、セールス・イネーブルメントに特化した企業であるR-Square & Companyを設立した山下貴宏氏に、セールス・イネーブルメントの概要や取り組み方、成功事例などをお伺いしました。

「営業で思ったような成果が出ていない」とお悩みの企業の方は、ぜひ参考にしてみてください。

なお、本記事は以前開催した「セールス・イネーブルメントの第一人者に訊く!トップセールスだけに頼らない組織作りの始め方」というウェビナーの内容をまとめたものになります。

動画でご覧になりたい方は、下記のリンクからチェックしてみてください。
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目次[非表示]

  1. 1.ディスカッションメンバーの紹介
      1. 1.0.1.株式会社R-Square & Company 代表取締役CEO/共同創業者 山下貴宏 氏
      2. 1.0.2.株式会社シーズ・リンク 取締役 金子倫也
  2. 2.セールス・イネーブルメントとは
    1. 2.1.セールス・イネーブルメントが解決する課題
    2. 2.2.営業組織の現状
  3. 3.セールス・イネーブルメントの基本的な枠組み
    1. 3.1.セールス・イネーブルメントの取り組みで失敗するパターン
    2. 3.2.イネーブルメントプログラムの柱
  4. 4.セールス・イネーブルメントの成功事例2選
    1. 4.1.事例1. CCCMKホールディングス株式会社
    2. 4.2.事例2. 凸版印刷株式会社
  5. 5.イネーブルメントにおけるナレッジマネジメントの役割
  6. 6.本セミナーでの4つのQ&A
    1. 6.1.Q1. どの指標が伸びたら「イネーブルメント施策がうまくいった」と言える?
    2. 6.2.Q2. 「働き方改革」の観点でイネーブルメントに取り組んだ事例はある?
    3. 6.3.Q3. 「育成の指標」として”従業員の達成感”を設定するのはアリ?
    4. 6.4.Q4. イネーブルメントに取り組むうえで上層部を説得する方法は?
  7. 7.セールス・イネーブルメントを実践する際におすすめの書籍


ディスカッションメンバーの紹介

株式会社R-Square & Company 代表取締役CEO/共同創業者 山下貴宏 氏

法政大学卒業後、日本ヒューレット・ パッカード、船井総合研究所、マーサージャパン、セールスフォース・ドットコムにてセールスイネーブルメント本部長を経て、2019年、セールスイネーブルメント特化企業R-Square & Companyを設立。(サービスサイトはこちら
著書に『セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方』(かんき出版)と『トップセールスだけに頼らない組織を作る 実践セールス・イネーブルメント』(翔泳社)がある。

株式会社シーズ・リンク 取締役 金子倫也

2006年、早稲田大学政治経済学部を卒業後、東日本電信電話株式会社(NTT東日本)に入社。在籍13年間でBtoB領域でのサービス開発・営業企画・プロモーション・ビッグデータ分析等の業務を幅広く経験。
2019年7月より株式会社シーズ・リンクに入社。動画×Web×資料のデジタルコンテンツプラットフォーム「riclink」の提供を通じ、企業のあらゆる場面でのデジタル発信・DX推進を支援。2020年9月に執行役員に就任し、2021年11月より現職に就任。

セールス・イネーブルメントとは

金子:まずは、セールス・イネーブルメントについて簡単に教えてください。

山下:セールス・イネーブルメントとは「人の成長を通じて、持続的な営業成長を創出する仕組み」のことです。今回は、自社の営業部門が成果を出せるようにするためのセールス・イネーブルメントの取り組み方や、成功事例などについてお話ししたいと思います。

セールス・イネーブルメントが解決する課題

金子:そもそも、なぜセールス・イネーブルメントが必要なのでしょうか?

山下:セールス・イネーブルメントの概念を取り入れることで、コロナ禍以降に劇的に環境が変わった「営業組織の課題」を解決できるからです。

金子:山下さんは、コロナ禍以降に営業を取り巻く環境はどのように変化したとお考えですか?

山下:一番大きな変化は、営業担当とお客様との接点が「オンラインが基本になった」ことです。お客様が実際に営業担当と会う段階では、インターネットで十分に情報収集をされていて、商材について営業より詳しいことさえあります。また、意思決定がある程度まで進んだ段階で営業と会うことも多く、営業側からすると不利な状況が作られつつあると思っています。

金子:そのような環境変化のなかで、営業がすべきことは何なのでしょうか?

山下:営業スタイルを見直し、オンライン中心のスタイルへ移行することです。金子さんは「2:6:2の法則」をご存じですか?

金子:どのような組織でも、優秀な人が2割、普通の人が6割、働きの良くない人が2割になるという法則ですよね。

山下:はい。営業の世界でも、トップセールスと呼ばれるような優秀な人は、コロナ禍以降の環境の変化に対応して成果を出し続けられますが、残りの8割は取り残されてしまう可能性があります。従来は、マネージャーの背中を見せて育てたり個別にトレーニングしたりする方法が取られていたのですが、だんだんとそのやり方も通用しなくなってきているんです。

金子:今は人材の流動性も高くなってきていて、「せっかく育てたのに退社してしまった」というケースも多いですよね。

山下:おっしゃるとおりです。そこで、20〜30代の若手社員にいかに自社で長く働いてもらうかを考える必要があります。若手社員は「その企業が成長できるかどうか」を重要視しているケースも多いので、セールス・イネーブルメントに取り組んでいる企業とそうでない企業とでは大きな差が生まれますね。

金子:営業を取り巻く環境がオンライン中心に移行しているという観点では、商談後に「フォローコンテンツ」を提供するのも有効だと思います。下記の記事では、フォローコンテンツの重要性をお伝えしていますので、ご興味のある方は併せてご覧ください。

“オンライン商談×訪問商談”のハイブリッド時代における「フォローコンテンツ」の重要性

営業組織の現状

山下:なお、営業組織の現状については、SalesZineというメディアが調査をしてまとめています。この調査によると、多くの企業で売上拡大に向けた営業組織の「仕組み化」は進んでいないのが現状です。「やらなきゃいけない」と思っていても、仕組み化に取り組めていないことが読み取れますね。そこで、売上拡大の仕組みづくりをするために、セールス・イネーブルメントの「基本的な枠組み」を押さえることをおすすめします。

セールス・イネーブルメントの基本的な枠組み

金子:セールス・イネーブルメントの基本的な枠組みについて、詳しく教えてください!

山下:セールス・イネーブルメントは、「営業担当の成長を通じて成果を上げること」が大きなコンセプトになっています。ここでは、期待される営業の「成果」を起点に、そのために求められる「行動」と「知識/スキル」をつなぐ必要があります。そこで、まずは「自社の営業ではどういった成果が求められているか」を考えてみてください。そのうえで、「成果」につながる「行動」はなにか、「行動」に必要な「スキル/知識」はなにかを順番に洗い出していきます。

セールス・イネーブルメントの取り組みで失敗するパターン

金子:セールス・イネーブルメントは、「成果」から考えていくものなのですね。そうしたら、「行動」を起点に取り組もうとすると失敗しやすいのでしょうか?

山下:そのとおりです。セールス・イネーブルメントで失敗する典型的なパターンは、「セールス・イネーブルメントが流行っているから」という安直な理由でとりあえずツールを入れたり、いきなりトレーニングを始めたりすることです。

金子:やはり、そうなのですね。

山下:あとは、社内の各部門で一貫したプログラムになっていないケースも多いです。これだと構造的な理由で育成と成果はつながりません。セールス・イネーブルメントを成功させるためには、「成果」「行動」「知識/スキル」の3階層をしっかりつないで、各部門をまたいでセールス・イネーブルメントに取り組むことが大事になります。

金子:セールス・イネーブルメントに取り組む組織づくりは、どのように行えばいいのでしょう?

山下:セールス・イネーブルメントが進む欧米では、セールス・イネーブルメント専門のチームも増えつつあります。ただ、いきなり社内に「セールス・イネーブルメント部」を設けるのはハードルが高いです。そこで、まずは1人でもいいので、セールス・イネーブルメントの取り組みを統括する人を設けることをおすすめします。

イネーブルメントプログラムの柱

金子:セールス・イネーブルメントの統括者が決まったら、その人は何から手をつければいいですか?

山下:統括者がまずやるべきなのは、「なぜセールス・イネーブルメントに取り組むのか」を会社のなかでしっかり合意形成することです。そのうえで、以下の4つの柱を順を追って整理していってください。


  1. トレーニング:学習のためにはトレーニングが必要
  2. コーチング:学習してすぐに実践できる人は稀なので、マネージャーがコーチングしてサポートする
  3. ツール/ナレッジ:ベテランにはツール/ナレッジを共有して「動き方」の例を示す
  4. システム:1.2.3をシステム化する

セールス・イネーブルメントの成功事例2選

金子:実際にセールス・イネーブルメントに取り組んで、成功した事例を教えていただけますか?

山下:わかりました。ここでは弊社が携わった以下の2つの事例を紹介します。


事例1. CCCMKホールディングス株式会社
事例2. 凸版印刷株式会社

事例1. CCCMKホールディングス株式会社

山下:まず紹介するのは、CCCMKホールディングス株式会社様の事例です。同社が抱えていた課題は、以下の3つでした。


  1. 営業に関するデータは大量にあるものの、あまり活かせていなかった
  2. 属人的な売り方になっていて、営業マンによって成果にバラつきがあった
  3. 営業が担当すべき業務が多すぎた


そこでまず取り組んだのは、成果をあげている社員へインタビューを実施し、「営業があるべき姿」を定義することです。そのうえで、営業に必要な行動やスキルを洗い出し、今の営業ができていること・できていないことを把握しました。さらに、ツールを使って「学んだことが日々実践されているか」もデータで確認しましたね。

こうして強化すべきポイントを明確にした上で、「アセスメント」→「スキルアップ研修」→「商談」のPDCAサイクルを回して、営業組織の改善につなげました。

事例2. 凸版印刷株式会社

山下:続いて紹介するのは、凸版印刷株式会社様の事例です。同社には、中期経営計画で「DX事業を2025年度までに全社営業利益の30%まで伸ばす」という目標がありました。しかし、これまでは印刷サービスが主力で、DX事業では新しい商材を扱うことになるため、どうしても売れる人と売れない人で差が生まれていたんです。

そこでまずは、「新しく案件を作って受注につなげるための型」を作りました。この型に沿って営業を実施し、効果を検証して改善を重ねることで、売上の向上を目指しました。

同社の取り組みのポイントは、課長とセットで実施したことです。よくある営業施策として「営業現場向けのトレーニング」がありますが、日々の案件のなかでマネージャーが指導できていないと一過性で終わってしまいます。そこで本事例では、課長と営業メンバーがペアを組んで受注につなげるためのアプローチを実施しました。

イネーブルメントにおけるナレッジマネジメントの役割

金子:社内で知識やノウハウを共有する「ナレッジマネジメント」が、セールス・イネーブルメントで果たす役割についても教えていただけますか?

山下:セールス・イネーブルメントで営業担当を成長させるため、ナレッジマネジメントで知識・ノウハウを共有することは非常に重要です。ただ、ナレッジマネジメントに失敗しているパターンも少なくないですね。

金子:ナレッジマネジメントに失敗するパターンには、どのようなものがありますか?

山下:よくあるのが、情報共有の目的が曖昧なままITツールありきでスタートしてしまうことです。また、ツールを入れた後のメンテナンスや運用が煩雑なことも多いのですが、日々忙しい営業現場にメンテナンスや運用を任せるのは無理があります。

私が考えるナレッジマネジメントのポイントは、「ナレッジマネジメントをリードする人」を置けるかどうかです。

  • 「どのようなナレッジが営業現場で必要とされているか」
  • 「そのナレッジを持っている人は誰か」
  • 「営業現場にどういう手段でナレッジを渡すべきか」

これらを主導する人がいれば、ナレッジマネジメントは成功しやすくなります。

本セミナーでの4つのQ&A

金子:最後に、このセミナーに寄せられた下記4つの質問について、ご回答をお願いします!


Q1. どの指標が伸びたら「イネーブルメント施策がうまくいった」と言える?
Q2. 「働き方改革」の観点でイネーブルメントに取り組んだ事例はある?
Q3. 「育成の指標」として”従業員の達成感”を設定するのはアリ?
Q4. イネーブルメントに取り組むうえで上層部を説得する方法は?

Q1. どの指標が伸びたら「イネーブルメント施策がうまくいった」と言える?

山下:見るべき指標には、「営業の指標」と「育成の指標」の2つがあります。

営業の指標としては、「成果が出たのか」「会社で伸ばさないといけない数字が伸びたのか」などをチェックしてみてください。

育成の面では、「育成は進んだのか」「e-learningの受講率は伸びたのか」「コンテンツの利用率は増えたのか」「営業スキルは改善したか」などが指標の候補になります。

Q2. 「働き方改革」の観点でイネーブルメントに取り組んだ事例はある?

山下:弊社で取り組んだ事例はありませんが、セールス・イネーブルメント施策で「働き方改革」はできると思います。セールス・イネーブルメントで人の動きを変えて、業務を効率化できれば、残業や休日出勤は減っていきます。

Q3. 「育成の指標」として”従業員の達成感”を設定するのはアリ?

山下:育成の成果は、定量的に確認することをおすすめします。指標となるデータは、下記のとおりです。

なかでも、「トレーニング系のデータ」は比較的取りやすいです。「営業の指標」と「育成の指標」でデータを取り、なにがどう貢献しているかを見える化することでPDCAを回しやすくなります。

Q4. イネーブルメントに取り組むうえで上層部を説得する方法は?

山下:方法としては、2つあります。

まずは、「セールス・イネーブルメントに取り組むとしたら、どういう取り組みになるか」を自分なりに成果起点で計画して説得する方法です。

また、弊社のようなベンダーをうまく活用し、競合他社や海外の成功事例を伝えることも有効です。上層部からすると、他社の取り組みは気になるはずですからね。

どちらかが欠けても上層部はイメージが湧かない可能性があるため、上記の2つの方法をかけ合わせて説得してみてはいかがでしょうか。

セールス・イネーブルメントを実践する際におすすめの書籍

セールス・イネーブルメントを実践する際は、今回お話を伺った山下氏が書かれた『トップセールスだけに頼らない組織を作る実践セールス・イネーブルメント』も参考にすることをおすすめします。

なお弊社では、営業資料を整理・共有する際に役立つ「コンテンツMAP」の作り方や、活用シーンについてまとめた資料を無料配布しています。

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